しまなみ海道の国宝を巡ろう 尾道編

しまなみ海道の国宝を巡ろう 尾道編

坂のまち尾道

瀬戸内を代表する港町・尾道。 ラーメンや猫のイメージが先に浮かぶ人も多いですが、実は「文化財の宝庫」でもあります。駅から歩いて巡れる範囲に、国宝や重要文化財を持つ寺院が集まっているんです。

今回は「しまなみ海道文化財巡り」シリーズの初回として、尾道の歴史と文化財をご紹介します。

尾道文化財分布図

尾道発展の歴史

尾道が港町として登場するのは、平安時代末期。今からおよそ850年前のことです。 北にあった大田荘からの年貢を京に運ぶために港が整備され、町の歩みが始まりました。

大田荘は後白河院を経て高野山金剛峯寺に寄進されます。この縁から、尾道には真言宗のお寺が多く残っています。奈良時代創建と伝わる西國寺もこのとき、後白河院の勅願寺となりました。

その後は海運の拠点として発展。南北朝の争乱では足利尊氏が浄土寺で祈願を行い、後には足利義満も天寧寺に宿泊しています。山名氏の勢力下では日明貿易の港としても栄えました。

また、商人の力も見逃せません。港町らしく、庶民の間では一遍上人の開いた時宗が大流行。現在も6つもの時宗寺院が残り、全国でも珍しい「時宗密集地帯」になっています。

近世には広島藩の港として、さらに近代には鉄道が通り、陸と海の要衝として賑わいました。

それでは、尾道駅から順に文化財めぐりに出発しましょう!

国宝仏画を有する持光寺

尾道駅から東へ歩き、細い坂道を上ると、立派な石造りの門が迎えてくれます。江戸時代末に造られたもので、瀬戸内の石工の技術の高さを物語っています。

持光寺石門

その先にあるのが浄土宗西山禅林寺派・持光寺。 もともとは平安時代初期、慈覚大師円仁が天台宗寺院として創建しましたが、南北朝時代に善空頓了が浄土宗寺院として再興しました。

持光寺

この持光寺に伝わるのが、国宝の仏画「普賢延命像」。 仁平3年(1152)の銘がある平安末期の作品で、制作年代が分かる仏画として非常に貴重です。

持光寺看板

「普賢延命」とは、普賢菩薩が密教的に変化した姿。長寿祈願のための本尊で、20本の腕を持つ真言系と、2本腕の天台系があります。持光寺の像は20本腕を持つ真言系で、現存最古の作例です。体のどっしりした表現や太い朱線の輪郭などに、優美な平安時代末期の絵画から鎌倉時代への絵画様式の移行を考える上でも重要な仏画です。

一説には、鳥羽法皇が近衛天皇の病気平癒を願って描かせたとも伝わります。どのように尾道へ伝わったかは定かではありませんが、中央と尾道の深いつながりを感じさせますね。

残念ながら国宝は滅多に公開されませんが、本堂にはインパクト抜群の「五劫思惟阿弥陀如来像(通称アフロ阿弥陀)」が安置されています。髪の毛がアフロ状にこんもりしたユニークな仏様は必見です。

村上水軍ゆかりの光明寺

持光寺からさらに石畳の坂道を進むと光明寺に到着します。 こちらも持光寺と同じく、円仁による創建で、のちに南北朝時代に浄土宗の寺院として再興されました。

光明寺

室町期になると、村上水軍の武将たちが帰依し、深い関わりを持つようになります。見どころは、村上水軍の武将・鳥居資長が寄進したとされる「千手観音像」。船の中に安置されていたと伝わり村上水軍の航海を支えてきました。「浪分観音(なみわけかんのん)」とも呼ばれます。

浪分観音

(写真:文化庁 文化財デジタルコンテンツ/ CC BY 4.0)

平安後期の作で、現在は国の重要文化財。衣の浅い彫りや優美な雰囲気は、平安後期らしい雰囲気です。拝観には事前予約が必要ですが、歴史好きにはぜひ拝観してほしい一像です。

さらに光明寺の宝物館には、尾道最古の仏像「金銅聖観音立像(奈良時代・重要美術品)」も安置されています。尾道の仏教文化の厚みを感じられます。

尾道といえばこの景色!三重塔が美しい天寧寺

さらに進むと、尾道を代表する景色の一つが目に飛び込んできます。 それが天寧寺の三重塔。

天寧寺三重塔越しに見る尾道の街並み

天寧寺は南北朝時代の貞治6年(1367)、足利義詮が開いた臨済宗の寺院で、開山は京都で数々の禅寺を開いた名僧・春屋妙葩。塔は創建当初から残るもので、重要文化財に指定されています。

天寧寺細部

建築様式は和様を基調に禅宗様が混ざった折衷様。扇のように広がる垂木や粽柱(ちまきばしら)、先端に向かって細く伸びる尾垂木、波模様の壁装飾などに禅宗様の様式が表れています。もともとは五重塔でしたが、江戸時代に老朽化した上層を取り除いて現在の三重塔になりました。ややずんぐりとした姿は、その名残なんですね。 (五重塔のまま残っていたら国宝だっただろうな…)

塔越しに見る尾道の街並みは、まさに「これぞ尾道!」という絶景。ぜひ写真に収めてほしいスポットです。隣の「猫の細道」も有名で、歴史に詳しくなくても楽しめる場所になっています。

後編へ続く

今回は、持光寺・光明寺・天寧寺の3つをご紹介しました。 尾道は「寺のまち」と呼ばれるだけあって、国宝・重要文化財を持つお寺が7つもあります。観光で巡るなら、まずこの3か所を訪れて、そのあと尾道本通でラーメン、という流れもおすすめです。

尾道ラーメン

次回は常称寺・西郷寺・西國寺・浄土寺をご紹介します。お楽しみに!

今回ご紹介した文化財

持光寺
https://bunkazai-map.colour-field.jp/places/T01789

国宝  絹本著色普賢延命像 平安時代

光明寺
https://bunkazai-map.colour-field.jp/places/T01793

重文  木造千手観音立像 平安時代

天寧寺
https://bunkazai-map.colour-field.jp/places/T01792

重文  天寧寺塔婆 南北朝時代